〈推薦図書〉
『村上T 僕の愛したTシャツたち POPEYE BOOKS』
著者:村上春樹 出版社:マガジンハウス (914.6||Mu)
多少大袈裟(おおげさ)な感はありますが、本を読むと、次のことを感じることができます。
自分ではない誰かに、世界はどのように見えているのか。
いまという時代は、わざわざ本を繙(ひもと)かずとも、スマホの画面のなかで「誰か」の思うこと・感じたことの断片を知ることができます。もちろんそれもよいと思います。しかし、わずかな文字数のなかから、あるいは画像(動画)を主とするページのなかから浮かび上がってくるものは限定的でもあります。
文字を並べ文章を創ることのプロフェッショナルが、作家です。彼らが時間と労力をかけて生み出す一冊の本は、私たちを「自分ではない誰か」の人生に誘ってくれます。
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以上のことを手軽に感じられると考え、『村上T 僕の愛したTシャツたち』を推薦図書に選びました。作者である村上春樹さんが集めたTシャツを紹介した本です。そこに描かれた文字や絵柄から感じること、それを手に入れるまでの刺激的なエピソードなどが書かれています。
作中登場するのは、英語で「ぼくはなにしろケチャップにまでケチャップをかけちゃうんだ」と書かれた真っ赤なTシャツ、正体不明の動物(?)が描かれたTシャツ、「DMND」という謎の文字が並んだTシャツなどなど・・・。
村上さんは、これらをどんな気持ちで集めたのでしょうか。のちのちタンスから引っ張り出して何を思うのでしょうか。この本を通して、「自分ではない誰か」の世界を少しだけ覗き見ることができそうです。
こども学科 講師 宇賀神 一